考えるヒント19 『夢』

今日は『夢』についてお話したいと思います。


人は誰しもが幼いころ、「一年は長いなあ」と感じながら生きていたはずですが、大人になり年を取るにしたがって「一年があっという間に過ぎていく」という感覚になります。
これはどういうことなのか?相対性理論のごとく、実際に時間が短くなっているのか?


これは実は「体内時計」が子供と大人では違うからで、よく言われるところのゾウとネズミの関係です。
ゾウは60年、ネズミは3年生きますが、心臓の鼓動はどちらも一生のうちで15億回打ちます。哺乳類はどの種もすべて15億回で、人間も医学が発達する以前は寿命30年で15億回です。
簡単に言うと大きい動物ほど鼓動が遅く、体外時計的に言うと動きが遅い。逆に小さい動物ほど鼓動が速く俊敏に動き、瞬間的な判断で機敏に生きている。
つまり人間はゾウよりも2倍の速さで生きており、ネズミは20倍の速さで生きているのです。

わかりやすい表現で言うと、5メートルの高さから落とすと、ゾウもネズミも同時に地面に着きますが、ネズミ目線で見ると
「落ちる落ちる、高い、落ちる落ちる、どう地面に落ちようか」
となるし、ゾウ目線で見ると、
「えっ」
で終わりです。

つまり体内時計的に言うと、人間もゾウもネズミも同じだけの長さの一生を過ごした感覚になるということです。
ネズミからすれば人間などスローモーションで動いているように見えます。

来世に生まれ変わるならゾウのほうがネズミよりも長く生きられるから得、ということはないのです。


そして、人間も子供は小さく俊敏で、1日中動き回り、日々新しいものを発見しながらその日その日を過ごします。逆に大人は落ち着いて、新しい発見もなく、日々同じ仕事をこなします。

先ほどの例でいうと、子供がネズミで大人がゾウです。まあそこまでの差がないとして、子供がウサギぐらいですかね。

つまり子供のほうが何倍も1日が長く感じながら生きているのです。


では、生物学的に、子供のようにより多くの新しい発見や経験があるほうが体内時計的に有利だとすれば、例えば1日の3分の1を占める睡眠というのは非常に不利なように思われます。

夜寝てから朝目覚めるまであまり時間が経過していないように感じます。まるで前述のゾウですね。逆に、毎日2時間しか寝なければ、より多くの時間活動出来るわけですから、前述のネズミや子供と同じ事になります。

しかし人間は1日に6時間以上寝なければ体が回復しませんから、2時間しか寝ないわけにもいかないし、体は寝ながら頭だけ起きるというわけにもいきません。



というわけで『夢』の登場です。



夢は体も寝て頭もほぼ寝ているのに「無意識」のうちに勝手に頭を動かしまくって、脳を鍛えます。しかも夢のすごいところは、起きているときのように外部からの情報をもとに脳を動かすのではなく、内部にある蓄積された情報をもとに脳を動かします。まるで瞑想している時のごとくです。

よく言われる理論では夢は脳にある情報を寝ながら整理するためにあると言われますが、実はそうではありません。より多くの時間(体内時計的に見た時間)、脳を活動させて生物学的に他よりも有利に脳を鍛えるために、脳内にある限られた情報の中でできる限り頭を使おうとしているのです。
起きている時は記憶し、寝ている時に頭を活性化させて脳の考える力、物事を捉える力を養うのです。
脳内を整理するだけなら起きているときに出来るように進化すればよかったのです。
しかし考える力、捉える力を養うのは起きているときにはできません。
何故なら勉強家以外は起きている間中、外部刺激に対してだけ反応して日々生きているからです。決して頭の中をこねくり回して瞑想のような状態で過ごしている人は一般的な人では一人もいません。

そしてなぜ寝ている間の3分の1の時間しか夢を見ないのかというと、夢の間は起きている時の数倍頭をこねくり回しますからすぐ疲れます。そのためにレム睡眠とノンレム睡眠を交互に繰り返して脳を休ませる必要があるのです。延べ2時間ぐらいが限度です。

だから起きているときには、夢ほどには頭をこねくり回すことができません。

よく言われるところの、芸術家において寝る直前や頭が幻覚を覚えたり覚醒したりした状態の時に特に良い作品が浮かぶことが多いのは、そういう状態の時ほど頭のイメージ中枢が数段に活性化されている為です。普通の外部刺激を受けた状態の時にはイメージの膨らんだ作品は生まれません。

ちなみに20歳ぐらいまでの頭の柔らかい時期に、毎日30分以上、自分の頭の中で物語、ストーリーを作る作業、つまり夢と同じ作業をやったなら、実際に飛躍的に脳が賢くなり、頭のレベル、頭の受け皿が各段に強く大きくなります。


この事実からも、夢は記憶の整理ではなく、脳の賢こさ、受け皿を強化する為にあるのがよくわかります。

だから夢を多く見るのは人間のみです。ネコやイヌはほとんど見ません。
ちなみに幼い頃ほど夢をよく見るという事実も、幼い頃に脳の基礎のほとんどが形成されるのと比例しています。年を取れば取るほどに、夢で脳を鍛える必要がなくなるのですね。



17世紀の哲学者スピノザは、


「人間の一生は神に投げられた小石のごとく、あらかじめ決められた放物線を描いて地面に落ちていくのみである」

と言いました。


その放物線を少しでも鮮やかにより長く描きたいのなら、子供の頃のように日々新しい事に挑戦し、夜は出来る限り夢を見ることです。



『夢』は見れば見るほどに

脳が鍛えられ

そして『夢』を持って生きるほどに

時が味方となって

その想いは叶えられるのです




考えるヒント19『夢』でした



To be continued‥