考えるヒント22 『文化』

今日は『文化』についてお話したいと思います。



世界にはさまざまな文化が存在していますが、それらはそこにあって当たり前のもの、人間社会に自然に存在しているものと思われています。
海で魚が群れて泳いでいるように、鹿が野山を駆け巡るように、岩場で鷹が巣を作るように、人間もコンクリートや木で家を作り、電車や車で移動し、テレビやスマートフォンを見るのが当たり前だと思われています。
誰も、電車に乗っていて「この箱のようなものはなんなんだ。前に座っているわけのわからないものを身にまとい、変なものを顔に塗りたくっている女はなんなんだ。なぜ景色がこんなに猛スピードで通り過ぎていくんだ。その前に、なんでこんなにギュウギュウ詰めで人間がいるんだ。」
と不思議に思い、あ然とする人はいません。というよりもいないと思い込んでいます。

しかしアフリカの奥地のなんとか族を連れてきて電車に乗せれば、前述のような感想を必ず持ちます。

つまり、人々は自分の住んでいる世界が当然で当たり前だと思い込み過ぎているのであって、実際は住んでいる世界も、周りに溢れている精神世界も、すべてが自然からはかけ離れたとんでもない人間社会の産物なのです。



鷹もカブトムシもマグロも鹿も、生まれて放っておいても、遺伝子により勝手に生きて自分たちの生を全うできます。
地球上の全生物はほんの一部の高等な類人猿の種をのぞき、生存のために受け継がれる『文化』といったものはほぼ持っていません。遺伝子に組み込まれた反応のみで一生を全うできるのです。

ところが人間は全く逆で、遺伝子だけでは到底生きていけないばかりか、文化の継承がなければこの人間社会は途端に全くのゼロに後戻りします。
一般の人間はそのようなことは浅くしか思慮したことがないので、誰もが「そんなことはないだろう」、と思ってしまっていますが、前述のアフリカ人が示してくれたように、自分の知らない文化は理解できず、したがって赤ん坊に何も教えずに育てれば、まさにこのアフリカ人と同じ反応になります。

「この箱はなんなんだ」です。

言葉も知らない状態ですから感覚でそう思うだけです。

そして例えば、日本人は毎年100万人が産まれるとして、この一年に産まれた100万人の赤ん坊全員に何も教えずに育てれば、なんとその学年だけが高校生の年齢になっても、100万人全員が電車に対して「この箱はなんなんだ」となります。
さらには、そのような何も教えない年代を100年連続で続ければ、電車も、テレビも、作物の栽培も、家の建築も、日本語も、芸術も、我々が日々当たり前だと思っているほぼすべての物や文化や文明を根底から失った、ただの猿が1億人いるだけの島になってしまいます。
あるいは日本の文化を教えず、ヨーロッパの文化を徹底的に教えれば1億全員が根本からヨーロッパ人になるし、ヨーロッパ人を1億人連れてきて日本で育てれば、1億全員が白人で日本の文化はそのまま残った、肌の色が入れ替わるだけの状態になります。

つまり我々が日本と思っているもののほとんどは、『日本文化』のことなのです。
すべてはオギャーと生まれて周りの人間や社会がどれだけ文化や言語、慣習を教えるかによって、猿にもなれば日本人にもヨーロッパ人にもなり、文化の薄れた新時代人にもなり得るのです。


ここまでくればある程度日本の現状が見えてくると思いますが、日本の社会全体が年々本来の日本文化からはかけ離れた空白のような文化へ加速度的に邁進し、そのような悲惨な発育環境、教育環境で育つ世代が、さらに空白の文化をつくりさらに加速度的に教育環境を悪化させる、というとめどない悪循環に陥っています。

日本人は日本社会が誕生した2000年前からほんの100年前まで1900年間、自分の親や、祖父母の世代と何ら変わらない、文化の継承、しつけ、教育、環境、を子供の世代に与え続けてきました。しかも彼らは生きていくのもやっとの世代であったため、現代人では真似できないほどに必死に全身全霊で子供達への文化の継承を行いました。
親が子をほおっておいて馬鹿になってもどうしようが生きていけるような、現代のような豊かすぎる甘い世の中ではなかったのです。

今のままの現状では、生きていくのは何ら問題はないが、充実した人生を送るにはあまりにも空虚すぎる世の中が延々と加速しながら続いていくだけのつまらない世界になってしまいます。

100%正しい文化もなければ、「美」ばかりが溢れている文化もありません。しかし、人類はとにかく祖先が築き上げてきた文化を自分の代で絶やさないことだけを想い、必死に徹底的に文化を何とか繋ぎ合わせてこれまでやってきたのです。

自分の代ですべての文化を途絶えさせるというような、物事の破壊などは人間は簡単に出来てしまいます…
しかし祖先が延々と受け継いできた文化を、オギァと生まれた白紙の次の世代にすべて伝えることは並大抵の努力では出来ません。ですが少なくとも自分もしくは親が持っている文化というものは、その前の世代の方々が何とか必死に守り伝えて下さったものであるのですから、自分も同じだけのものを次の世代に伝えることはそれは我々の使命なのではないでしょうか。


この文化の希薄になった時代に、我々はできる限り親や祖父母の世代から文化を吸収し、そして子供や次の世代に必死に有無を言わせず伝えきることをやらない限り、この文化の空白の時代は加速していき、やがて人類は精神的な面で滅んでいくのです。

精神が滅んでは他の動物と同じ、いや環境を破壊するだけ人類は存在すること自体がいっそう無意味になっていってしまうでしょう。


現代人のほとんどは、そしてあなた自身もそのような破壊的な社会の状態を加速させ、人類が精神的に滅んでいくのを助長させてしまっているかもしれません。


もう一度、歴史や文化、伝統、祖先、その国が育んできた精神、というものをしっかり見つめ直し、人類普遍の原理、「前の世代の文化を次の世代へそのまま伝える」この当たり前のことを使命としてしっかりやり遂げていきましょう。




「自分」とはすなわち
    「文化」であり

「自分」とはすなわち
   この世界そのものなのです




考えるヒント22『文化』でした



To be continued‥